【短編小説】ソノヒト ~第一章 「一撃」~

小説

会えない

コロナの感染者や重傷者が増えている。

飲食店への時短要請なども行われて
この先どうなるか誰も予想がつかない状況だ。

正直、こいつが流行り出し、
人に会えなくなった。

「人に会っちゃいけないんだ。」

そんな状況になったのは
緊急事態宣言が出たころだろうか。

僕も正直そうゆう気持ちになった。
人に会うことを完全にやめた。

もちろん飲みに行くことも一切しなかった。
しちゃいけないと思っていた。

突然の電話

9月後半。
疎遠になっていた人からの突然の電話だ。

普段、電話なんか掛けてきてくれたことは一度もない。

電話の内容は簡単に言えば
飲みの誘いだった。

すごく嬉しかった。

それまで、人と会うことはもちろん
飲みに行くことを断っていた僕にとって
すごく新鮮で衝撃的だった。

電話というありふれたツールで
自分が閉じこもってた殻を一撃で破った。

気持ち

そのころは比較的コロナが落ち着いていた。
すぐに約束をし、飲みに行った。

「本当に楽しかった。」

その言葉でしか言い表わしようがない。

今まで疎遠になっていたのが
嘘のようだった。

それからは何度かLINEで、
たわいもない日常を送り合った。

というより
自分が一方的に送りつけていたように思う。

正直、迷惑だったのかも知れない。

自分の気持ちが先に走り、
相手の気持ちがだいぶ後ろを歩いているように感じた。

ジェットコースター

「もともと疎遠になっていたし
コロナが落ち着くであろう2、3年後に
その人とはまた会えればいい。」

なんて勝手に思っていた。

そんなことを思っていた矢先に
あまりにも早く会えてしまった。

気づいたら自分の心はジェットコースターに乗っていた。
しがみつくのがやっとだった。

僕は正直、LINEが嫌いだ。
相手の本当の気持ちが読めないからだ。

それなのに、それに頼っている自分がいた。

「2、3年後に本当は会いたかった。」

そんな言葉を気づいたら送っていた。

本当はまたすぐにでも飲みに行って
今までのように楽しく話したいのに。

結果的に、僕はジェットコースターから
手を離してしまっていた。

後悔

後悔した。

「今は会いたくない」みたいなことを言ったことで
相手の気持ちを傷つけてしまった。

たぶん今度はその人が
分からなくなってしまったんだと思う。

うまく話ができなくなってしまった。
本当に謝っても謝り切れない。

閉じこもっていた殻をその人が破ってくれて
僕自身は人に会おうと思うようになっていた。

紛れもなくその人のおかげだった。

「ありがとう。」
本当は会って言葉で伝えたいのに。

一撃

僕は人に会うことをした。

母校の大学にいったり
友達に会いにいったり

その人のおかげで
人と会っていいんだって思えるようになっていた。

でもその人は僕のせいで
殻に閉じこもってしまったのかも知れない。

もしかしたら
嫌われてしまったのかも知れない。

でも正直思う。ずるいよって。

会いたいときには電話をしてきて、
僕が会いたいと思うようになったら
今度は会ってもくれなくて。

会えない理由は
ここ最近のコロナの状況のせいにされた。

気持ちが読み取れないはずのLINEからも
その理由はたぶん違うのが僕にも分かった。

完全に僕のせいだ。

やっと自分のなかで整理ができたのに。

おそらく一撃で電話をしたとしても
出てはくれはしないだろう。

だから、予め電話をする約束をした。
でもその日になるのが怖かった。

いつの間にか
自分が嫌いなLINEに逃げていた。

「さよならじゃなく、また。」

電話をしたら、
完全に疎遠になるような気がしたから。

11月最後の夜

いつものように違う自分を装って、
気づいたら僕はブログを書き始めていた。

無心で何も考えないように。
その人のことを忘れるために。

ブログなんか1ミリも書きたくないのに。

できることなら、
また会って一緒に笑っていたい。

ビールで乾杯したい。

正直、その人に会って
また楽しく話せることができて、
「ありがとう」を伝えられたら

ブログなんかもうやめたいと思う。

この中の自分は本当の自分ではないし、

その人に会って
その人の目の前にいる自分が
本当の自分だと思うから。

11月最後の夜。
LINEの通知は仕事の出張を伝えるだけだった。

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