【短編小説】ソノヒト 〜第六章 「2度目の正直」〜

小説

道路

常磐道をひたすら走り続け
三郷スマートを降りた。

ここから僕が育った実家までは
下道で30分も掛からない。

仕事柄、普段から
道路を気にすることが多いが

埼玉とはいえ、
東京と比べると道路の整備具合がまるで違う。

埼玉を走る国道ですら都道よりも遥かに舗装はがたがたで、
ガードレールなんかは錆びれている。

これが県道ともなれば、
東京の区道、市道以下である。

それだけ道路に掛けらる予算が違うのだろうと
地元に帰るたびにつくづく思っていた。

仮の橋

おそらくもう既に着工して
2、3年は経つであろう生まれ育った地元の橋は

依然としてまっすぐに繋がらず、
くねくねとした仮の橋のままだった。

おそらくこちらも
予算の関係なのかも知れないと思いながら、
橋の手前で信号待ちをしていた。

その時、何故かその仮の橋が
自分の心そのもののようで
いつ完成するのかと自分の心に訴えていた。

本設の橋が綺麗に真っ直ぐに完成したら
「その人」に思いが届くのではないか。

その橋の完成を待ち侘びながら
ありえない願掛けをし、
くねくねと仮の橋の上を渡っていた。

ナマモノ

いわきでシュークリームを買ったときに
友達にはあらかじめ
ご在宅かどうかの電話をした。

さすがにナマモノなので、
保冷剤を入れてもすぐに渡せなくては
腐ってしまう。

友達には何気なく電話を掛けれられるのに
「その人」には電話を掛ける勇気がでない自分に
軽い苛立ちさえ覚えた。

さすがにこの状況で
地元に帰っていいものかとも考えたが、

そんな突然の帰省にも関わらず、
友達は快く会うことを了承してくれた。

今ここで人に会うことをやめたら
また誰にも会わない自分に戻りそうで怖かった。

だから僕が会いたい人、そして
会いたいと言ってくれる人には必ず会うようにした。

人に会っていいんだと思うきっかけを作ってくれた
「その人」にありがとうを伝えるまでは。

腐ってない

自分のことを言えば、
僕は本来、人に会うことが大好きな人間だ。

自ら飲み会を企画し、
楽しくやるのが好きだった。

だけど、こんな状況になり
人に会うことを企画する必要性がなくなった。

というより、
必要性がなくなったのは自分自身なのではないかと
悲観的になっていた。

そんな自分が本当に嫌いだった。

あんなに好きだった自分から
嫌いな自分に明らかに変わっていった。

だから余計に「その人」に会えたときから
人に会い続けようと思った。

会うことの大切さを教えてくれた
「その人」にまた会いたいと思った。

会えたなら必ず、
好きな自分に戻れそうな気がしたから。

2度目の正直

「その人」と疎遠になってしまうような話は
今回が初めてではなかった。

僕の弱さが原因なのは分かっている。

「3度目の正直」
「2度あることは3度ある」

この2つの言葉は裏腹ではあるのは分かっている。

ただ、1回目は「その人」のせいだと思っている。
2回目は完全に僕のせいだ。

だから、合計すれば3回目だが、
お互いにカウントすればまだ2回目である。

人に会いたいと思うこの気持ちこそが、
ナマモノであり

人に会いたくないという気持ちも
ナマモノなんだと思う。

あのLINE以降、
何の連絡もない「その人」は

もう僕に対して心の中のナマモノが
腐ったのかも知れないとも思いながら、

車の助手席に置いたシュークリームを眺めていた。

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