【短編小説】ソノヒト 〜第八章 「カロリー」〜

小説

まじめ大学

大学に行くからには
勉強も部活も頑張ろうと思った。

親に迷惑はかけたくはなかった。

大学1年での成績は
まあまあ優秀な方で

その成績が認められ
2年生の学費を半分免除された。

母親は相当喜んだ。

しかし、家が貧乏だったため
3、4年の学費は全て
奨学金で賄った。

相当家が苦しかったのだろう。

「部活なんか辞めてバイトをしなさい。」

と言われ続けたが
どうしてもバイトだけして
浮ついただけの大学生活を送りたくはなかった。

彼女ゼロ生活

周りは授業そこそこにバイトに明け暮れ
彼女なんか作って大学生活を楽しんでいた。

僕はと言えば
毎日しっかり授業に行き、部活をして、
バイトもした。

バイトは週3で一日4時間くらいしかしなかったが
それでも相当体はきつかった。

教職授業も履修していたため、
周りのみんなよりも1.5倍くらい
授業数はあったように思う。

そして、平日はもちろん
土日も部活はあった。

だから、彼女なんか
作っている暇なんてなかった。

忙しいから
大学4年間、カノジョーゼロ。

伊達ちゃんの
カロリーゼロみたく言っているが、

彼女ゼロ生活である。

ただ、誤解しないでほしいのが
モテなかったわけではない。

正直少しはモテたと思う。

しっかりと彼女を作って
いわゆる付き合うということはしなかったが

それなりにデートはした。

大学生としてありきたりではあるが
色んな女の子と
映画にもいったし、遊園地なんかにもいった。

妄想ではない。
本当だ。

付き合う前の段階で
自分に合っていないと判断していた。

本当に今思えばかわいい子もいたし、
勿体なかったのかも知れない。

ただ、好きと思えなかった。

自分でいうのもなんだが
正直相当ピュアだったんだと思う。

付き合う

この話を妻にすると
彼女の意見は違った。

大学のときは好きだと言われれば
付き合ったという。

その話を聞くたびに
なんてムダなことをと思うのだが、

結局、付き合うという言葉が先行して、
付き合うが特に何もしないらしい。

手を繋がなかった人もいるという。

そして結局嫌いになって
すぐに別れる。

意味が分からない。
それは本当に付き合っているのかと。

だったら、自分がしてきた
付き合う前の段階で判断するのと
何も変わらない。

「結局、それって好きじゃないよね?」

と問うと
その一言で論破した。

女性のいう「付き合う」とは
「好き」ではなく「彼氏」がいるという
形そのものなのだろうと今更理解した。

「結婚」も同じかも知れない。

「好き」ではなく「旦那」がいるという
ただそれだけのことのようにも感じる。

そうゆう女性は多いような気がする。

あと何年一緒に暮らすのかと
気づいたら指を折って数えていた。

ご一緒にトッピングで心も折れますが
いかがいたしましょうか。

そんな声が多摩方面から
聞こえてきたような気がした。

キレイな心

去年の10月に家を購入した。

家は多摩川沿いにあるが、
買った途端に台風19号が発生した。

正式名称は
令和元年東日本台風というらしい。

相当な被害をもたらしたのは
皆の記憶に新しいと思うが、

多摩川が氾濫するのではないかと
正直相当ひやひやしたことを覚えている。

そんなときに「その人」から
心配のLINEがきたことを今でも忘れない。

そして、そうゆうキレイな心の
持ち主だということは分かっている。

それは今でも。きっと。

仮住まいの家

そんな去年買ったこの家は
仮住まいという位置付けにある。

なぜなら今まさに向かおうとしている実家に
僕はゆくゆくは住みたいと思っているからだ。

妻は一人っ子のため
そちらにも妻の実家がある。

妻はそこに住みたいという。

話し合いの末というよりかは
意外と簡単に答えは出た。

将来は別々に暮らすというのが
今のところの考えである。

だから今の家は将来的に売ることになり
仮住まいという言い方以外に当てはまらない。

小さなリビング

今、実家に帰ろうとしていることで
以前、そんな話をしたことを思い出しながら、

出張を終えて疲れた車は
実家の駐車場に、
いつものようにバックで駐車した。

玄関を開け、更に、
小さなリビングにつながるドアを開けると

いつものように
父と母が迎えてくれた。

まず、こうやって
何事もなく元気でいてくれることだけで
本当に嬉しいと思う。

このドアを開けた瞬間、
いつもなんとも言えない安心感で包まれる。

とりあえず、雑菌の意味もこめて
お風呂に通され

そのあとは一緒にご飯を食べた。

親との会食が
こんなにも嬉しいものかと

いつの間にか胃袋とともに心の中の袋も
ゼロカロリーから一変、
高カロリーで満たされていた。

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